Sea Shore Stained Glass

2022.12.22Column

冬至  (舟/サバ二)

一年のうちで夜が一番長い時期。

当たり前だけど、ここから1番太陽が長い時期に向うので気持ちが前向きになります。

西高東低の冬型の気圧配置が強くなり、

日本海に面する山々に雪が降ると同じように、

ここ奄美大島にも北西の風が吹き荒れ、雪になりきらない雨が激しく降り続けます。

奄美の冬は雨季です。

 

 

11月上旬の皆既月食は神秘的な夜でした、

こんな日は宇宙がとても近く感じられ、少し感慨深くなります。

千差万別のテクノロジーが日々変化している現生でも、僕ら生物が生きる礎はこの宇宙のおかげなんだと思う。

宇宙に創造された生きた星。水の惑星の多くを掌る潮や風をより感じたく思う。

そんな思いを胸に、僕はニヌハという名の舟に乗ります。

 

サバニとニヌハ

サバニは沖縄とその周辺の島々で使われていた、伝統的な木造舟。外洋航海に適し漁や物資の運搬に使われてきました。

一本の大木をくりぬいて作る「刳り舟(くりぶね)」が原型ですが、森林保護の為複数の木材をはぎ合わせて作る「剥ぎ舟(はぎぶね)」が今の主流です。とはいえ、荒れた外洋に耐え得るスクジー(底板 画像の左側参照)は丸太から切り出した分厚い材を使い。側板も厚く長い一枚物を切り出し独自の流線型に曲げていきます。この「本ハギ」という技法は木材の接合に金属の釘などを使わずに、木製のチギリ(フンドー)や竹製の釘を用いるという特徴があり、その制作工程は、舟を作るということだけでなく、選ばれ切り倒された宮崎の飫肥杉の大木が、熟練の船大工の知識と技術により新たな生を受ける何か神聖な儀式のようなもののように思えます。

 戦後、「エンジン」の導入で「帆かけ」が減っていき、「FRP(繊維強化プラスチック)」の登場で「木造」の船は次第に作られなくなっていきます。船大工の数も減り、帆と櫂を操って船を走らせる技術も失われていきます。このような経緯で一度途絶えかけた木造の帆かけサバニですが、2000年に「第1回サバニ帆漕レース」が開催されたことが、沖縄の大切なアイデンティティーの復興への大きな一歩になったようです。

舟の形状はとても独特で、和舟と違いキールもフィンもない丸みを帯びながらも真ん中はフラットなシンプルな船底と外洋の波を切り裂く船首のハル・船尾のv型ロッカー。このフォルムは外洋航海のため理に適ったものではあるが、船を安定させるためには、乗り手の身体能力を必要とします。身体の小さな動き一つ一つがが舟にダイレクトに伝わる感じ、それに合わせて操舵は、帆に風を入れるロープと、フィンの代わりに舵ウェーク一本のみ。漕ぎ手との阿吽の呼吸で動かします。海上での風や潮に合わせ操るには、かなりの熟練した技術が必要とされ、あとは海を読む力と経験値。風を味方にし、漕ぎ続けられる身体が求められます。

 

 

ニヌハ 

僕らのサバニの名前。 子の端(ネノハ )、北の方向の端、極北を意味します。

この舟で北を目指し、航海することで何か人間にとって根源的なものが見えればと思います。

沖縄本島の最南端糸満から本島最北ー与論島ー沖永良部島ー徳之島ー加計呂麻島ー奄美大島南部ー奄美北部  奄美群島の島渡りをまずは最初の目標とし、その後トカラ列島を経て九州。そしてその先に見えるもの。あえて旅の終着点は決めません。

僕たちはまず沖縄糸満の懐に入りました。ここがサバニの発祥地であり、島渡りのための船を作っていただいた大城清さんの造船所がある場所だから。

糸満は沖縄本島最南端にある言わずと知れた海人(うみんちゅ)の町。かつて沖縄県が琉球王国だった時代から漁業の町として栄えてきました。糸満海人は漁場を求めて八重山地方や台湾、九州地方をはじめとする日本本土まで進出。その後南洋諸島、フィリピン、シンガポールという海外における漁業で新天地を開拓したそうです。この地で受け継がれてきた舟が糸満ハギと呼ばれるサバニの原型です。大城清さんはこの糸満ハギを継承している無二の船大工で、彼の持つ技術・知識と非凡な感覚は人間国宝に値するほどの方です。

またこの舟に鳥の翼のような帆を与え、ウェーク(櫂)のみでの操舵を教えてくれるのが、師である仲村忠明さん。長年の試行錯誤の上に完成された帆と、抵抗感を削ぎ落とした木製の滑らかなウェークはこの船に新たな生を吹き込みます。その他の仲村さんのつくる備品一つ一つは細部にわたって息を呑むほどの工芸品の域を持ち、それらを使いこなすことに大きな喜びが生まれるとともに、彼の持つ外洋での航海術を学び取得することが、チームの沖縄での定期的なミーティングでの大きな目的です。

 

 

 

(左:大城清氏  右:仲村忠明氏)

この混沌とした世の中で、生きる原点に立ち返り、大海原の中で何を見れるのか。

垣根のない外海上で、風と潮を理解すれば得られるであろう自由な感覚とはどのようなものか。

今から半年後の夏至に吹く来夏のカーチベー(新南風)にのったグランドラインを描くことを夢みます。

 

 

h.k